映画 BLUE GIANT は ちゃんとBLUE GIANT してて良かったが、ちょっとの残念が凄く残念でもある

上映から二週目に鑑賞してから暫く経ち、目にする世の中の評判は上々という、上京して一流のジャズプレーヤーを目指して奮闘する3人の青年を熱く描き切れたところが多くの人の心を打ったのだろう。原作者が脚本を担当しただけあり「コレジャナイ」映画になることなく、まさに自分が好きな"BLUE GIANT"だった。良かった。素晴らしい。そして、最大のポイントが迫力ある音楽。アニメ化が発表された時にはどうなることか不安しかなかったが、初めて予告を見た時に違和感がなくて少し安心した。常々、上原ひろみさんの曲は肩肘張らずとも聴きやすいしカッケーなと思っていたけれど、実際にジャズに興味もなかった多くの人に受け入れた雰囲気で大成功となったようだ。

 

熱いストーリー、面白かった。100点!という内容だった。

 

アニメになった事で玉田の頑張りっぷり上達ぶりが目に見えて(耳に聞こえて)分かるようになった。雪祈にあしらわれてもめげず、レガートも打てない状態で初ライブに挑みテンポを掴めずリズムも反転した挙句譜面を見失って完全停止。観ているこっちの股間も縮み上がるような悪夢の体験にもめげず、毛布被ってバケツ叩き(毛布一枚じゃ近所迷惑防げませんがなと爆笑。このシーン好き)、たかが数年で最後あれだけの演奏ができるようになる様が「どれだけ練習したんだよ」ってセリフを玉田にこそ言ってあげたい気持ちでいっぱいになった。君がMVPだ。泣けた。

 

原作から改変されたラスト(雪祈の処遇)も良かった。原作は東京編以降も続くので長い目でのストーリー展開を見据えたものだろうから、理不尽な出来事、苦い経験や挫折を長期にかけて克服成長するというシナリオは分からなくはない。しかし、やっぱりお話として心情的に受け入れがたい展開だったと感じる。あんな目に合わせなくてもいいんじゃないか、ドラマチックが過ぎたのではないかと。そして単体の映画で考えると原作ラストをなぞるのは物語として気持ちよくはないから、全く違う展開になる事を期待していた。結果、ギリギリまで原作同様だったがラストには少し暖かい展開が追加された。そうきたか!とびっくりした。泣いた。圧巻のテーマ曲からエンディングへ。あのぅ、映画では最後に流した涙をエンディングロール中に拭うんですよ。でも折角落ち着いたのに最後の最後でまた泣かせないでくださいよ。ダメです、反則です!・・・(笑)

 

結局、BLUE GIANTBLUE GIANTだった。キャラ達の熱さやバンドの緊張感は面白く、実際の音楽の力もあって迫力や分かりやすさもアップしていた。良かった。

 

ひとしきり誉めた。しかし、気になる点はあった。これを「欠点が気にならないほどの良作」と言っても良いが、なんかもやもやするのでそうは言わない。

 

①大の過去の練習シーンが薄い

映画は、大が仙台から東京に出てくるところから始まる。まあ、尺を考えると仙台編なんて当然やってる時間ないのだけれど、大が仙台でどれだけ練習をしていたかの描写が薄過ぎた。話が進むに連れて回想や東京での練習風景からも大がどれだけ練習の虫であるのかは見えるようにはなる。ただ、大にバンドを組もうと誘われた雪祈が最初に大の演奏を「審査」するシーン、演奏前に楽器経験3年と聞き大笑いするも、演奏を聴き「3年間、どんだけやってきたんだ…」と感極まる雪祈のシーン。漫画ではかなり好きなシーンなのだけど、映画ではこのシーンの前に大がどれだけ練習したかの描写が薄く、一応演奏の迫力からグッと来てはしまうのだけど、感情面が若干ス~ッと流れてしまったところは気になってしまった。ここがもうちょっと感動できれば良かったなと思った。

 

② CG(モーションキャプチャ)がヤバい

日本語を学習する人にとって「ヤバい」は難題だそうだ。良い意味も悪い意味も表し、どちらかはその時の状況とか微妙な文脈、ニュアンスを読み取る必要がある。

この場合、作った人には申し訳ないが、悪い意味。CGがヤバい。予告編のときから気になっていたが悪い方に実現されてしまった。演奏シーンが通常のアニメ作画ベースの場合と、CGベースの場合があり、特に遠目からのシーンがCG表現になり、少しボヤけた実写映像みたいに見えて「うっわ実写かよこれ!」という雑念がライブ中にどうしても頭をよぎって集中しきれない状態になる。何でこうなったかなという感じ。順調にアニメを見ていたと思ったら、急にヌルヌルした動きの実写パートが挟まってくるような、違和感、不整合、不気味の谷

予算がなかったのだろうか。時間もなかった?それとも計算通り?さらに、立川監督のインタビュー記事の中でこういうのを読んだ。「サックスの2番管は形状がとても複雑で描くのが大変なので、描かなくてよいようにフレーミングを工夫した(正確な切りだしではないが)」と。見てる最中は全く意識していなかったが、そう言われた上でwebで公開された映像を見ると、確かにその大変さを回避する最大限の努力がなされているように見える。。。どうなの?と。工夫した点として率直に語ってくれたとは思うのだけど、それって言う事なのかな、とも思ってしまう。

 

色々な音楽もののアニメがあり、演奏シーンのクオリティーも様々。マクロスセブンの頃のように絵と音のシンクロも取れずぎこちない演奏シーン(それでも熱い心<ハート>で観ていた)は遥か昔、最近のアニメであれば画も含めて思わず唸ってしまう良作はある。同じジャズなら坂道のアポロンのアニメーションは今見ても素晴らしいし、渡辺監督のインタビューを読めばそこまで手間掛けて映像を作っていたんだなと感動してしまうほど。吹奏楽で多くの管楽器が出る 響け!ユーフォニアムにも「工夫」はあるのだろうが、それぞれの楽器の美しさや音とのシンクロ感、ここぞという時の演奏のクローズアップ描写、サックスなら駅ビルコンサートの晴香部長のバリトンのソロなどは、キーが連動して動くような細かい所まで描き込まれている。雑念が入る余地もなくストーリーに引き込まれてしまう説得力のあるアニメーション。ぼっちざろっくの学祭ライブシーンなんかあの作りこみは「ヤバい」ですよ。シンプルなデザインでありながらリアルな動きとバンドの連帯感の演技には脱帽する。何回見返したことか。表現の方向性は作品によって違うだろうが、いずれも素晴らし過ぎる演奏シーンだ。

 

これらのレベルを実現するのは無理だとしても、頑張って欲しかったなぁと残念で仕方ない。せめてアニメとして違和感がない状態なら非の打ち所がなかった。

 

何にしても、誉め言葉の頭に「CGはちょっとアレだけど」というのを付けずにいられない状況が、ホントもったいなさ過ぎると感じる。これも個性と前向きに捉えたり、多くのレビューのように「欠点が気にならないほどの素晴らしいストーリー」と言ってしまっても良いのだろうが、やっぱり音楽モノとして他のアニメと完成度を比べてしまうし、ここが良くできていたら。。あえて「欠点が気にならないほどの」とか言わなくて済めばどんなに嬉しかっただろう。

 

③ジャズってなんだろう

原作の仙台編で大が周囲の人にジャズってどういうものかを伝えられず悩むような描写がある。クラスメートが述べる、「オシャレな音楽」「難しくて取っつきにくい音楽」「大人が聴く音楽」というようなイメージに大は「うーーん」と唸る。

この映画を見て、ジャズっていいものだと感じた人も多そうだ。映画のサントラもかなり売れている模様。

劇中で大がベテランのジャズマンのおっさんに、どのジャンルを演るのか問われるシーンがある。モードかビバップか?というような問いに、違うJAZZだ、と、ジャンルに囚われないことを表す受け答えをした。演奏者としてはそれで良いのだと思う。オリジナリティが重要なはず。

一方映画を見たJAZZ初心者はどう捉えただろうか。JAZZ=上原ひろみっぽいもの、と捉えたかも知れない。そういう人は、劇中大が熱く語っていた過去の偉人に興味を持ちCDを聴いたとしてピン!と来るだろうか。スタンダートなJazz曲も気に入って聴くようになるだろうか。そうなって欲しいがそうならないような気もする。少しモヤモヤとした感覚。

 

以上。折角の映画化だったので期待したけど、特にCGの出来がとても残念だった。それでも100点といいたい。熱すぎる良作。また観に行きたい。

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以上、上映開始間もない頃に書いたブログだったが、随分寝かせてしまった。

今回、行きつけの立川シネマシティで長らく上映していたBLUE GIANTが7/20で終了するというので、もう一度見に行った。前回鑑賞後に原作を最初から読み直した上での鑑賞だったので、展開が早いなというのはあるが、まあ玉田君の頑張りには以前以上にこみ上げるものがあった。吹き替えもいい味を出しているなと思う。

 

楽器の書き込みが良くない事を書いたが、改めてみてみると、細かく描き込まれたシーンはとても多かった。CGの部分はもちろん綺麗で。時々あれって感じもあったりして、シーンによって質感の落差が激しいなと微笑ましく思いつつも、そもそも上で挙げた他のアニメと比べると楽器が出てくるシーンが圧倒的に多いのであり、最大限良くできているなと思った。難癖付けてすみません。

 

一方、CGのシーンは相変わらず受け入れがたい。ヌルヌル動くのはいいとして、スピード感が全くない。音とは合ってるんだけど、不思議とノロく見てえしまう。これだけは惜しい。プレーヤーに寄ったシーンだとスピード感もあってカッコイイ。SoBLUEの玉田くんのドラムソロとかホント良かった。若いって素晴らしい、ってのが表現され切っていた。一つの曲中で入り混じる質感にはどうしても集中力を削がれてしまう。

 

最後のシーン、大はミュンヘンに向かって旅立っていったが続編は多分作られないだろうな。映像化できるリアリティとして東京編が限度という気がする。観てみたいけど。