特別編・響け!ユーフォニアム ~アンサンブルコンテスト~

ちょうど1年前くらいに、ユーフォの続編情報についてブログを書いた。
mad-machine.hatenablog.com

この間、ブログで書いたように「もう1年経ったか」とあっという間でもあったし、長かったという気持ちもあるが、何にせよ、ついに、2023年8月4日、ユーフォが再始動した。待ちに待った。制作に関わられた関係者の方にありがとうと言いたい!!
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原作の短編エピソード「アンサンブルコンテスト」をアニメ化したもので、位置づけとしては劇場版・誓いのフィナーレ後のエピソードになる。優子・夏紀の代の3年生が引退し、2年生の久美子が部長になった北宇治吹奏楽部が、少人数編成のアンサンブルコンテストに出場するという話。

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話
tkj.jp

原作を積んだまま読んでいなかったようで、観る前に読むかどうか迷った。
 読む、読まない、読む、読まない、・・・・、読まない!
しかし直前になって、やっぱり読もう、と思ったものの序盤ちょっとだけしか読めないう中途半端な状態で鑑賞。

どちらかと言うと巻き込まれ型で主体性がある訳ではなさそうに見えた久美子が、部の中で本当の意味での「相談所」に成長しようとする片鱗が感じられる気持ち良い作品だった。3年生編、原作でいうと最終章、の助走となるような内容で、2024年のTV3期がますます待ち遠しい。

コンテストに出場できるのは学校で1チーム。生徒同士でチームを組み、代表チームを部員自ら投票で決めるというオーディションがとられることになる。部内でのチーム編成に漏れてしまう者、自分の演奏に自信が無くて委縮してしまう者、部長になった久美子は、部内の色んな悩みに気を配ることが中心になりがちで、個人的にはチーム編成を巡って盟友の麗奈との関係で一喜一憂することになる。上級生としての立場を背負った久美子と麗奈の、お互いに一緒にやりたいけれど中々正面切って言い出せずに腹を探り合う様子からの、結局は同じ気持ちだったんだと分かって二人ではしゃぐシーンは、大きなほっこりポイントでとても微笑ましい。一方、あくまで実力主義一直線の麗奈を見て思う「自分よりうまい人が入ってきたら麗奈はどう動くのだろう」という疑問。直接チームを組むというイベントを通して改めて浮かび上がった、麗奈と釣り合う自分でいられるか、いたい、という久美子の中の不安がふと現れる。その不安は、葉月やさっちゃん、引いては夏紀のように自分より実力がある者を素直?に認められないだろうという後ろめたさのような感情と共に一旦蓋をすることになるが、二人が無邪気にはしゃぐことができるのはこれが最後なのかも知れないとも思わせるこのシーンには、ただ微笑ましいというだけではない複雑な気持ちを持たせられる。この流れが3期に対して繋がっていく。

本編終了後にTV新シーズンの告知があった。鳴り響く美しいユーフォのメロディー、誰?、銀色のユーフォ、一瞬の後ろ姿。ぞぞっときた(笑)。see you next spring。4月スタート、2024年春アニメだ。

※既に公式チェンネルで色々と公開済になっている。転校生の黒江真由。ふわっとしてかわいいビジュアルも公開されている。イメージはとてもいい感じで早く動いているところを見たい。声は誰が担当するだろうか。ちょっと想像つかないけれど、発表がたのしみだ。

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チーム練習の部分。
今回は、パーカッションのメンバーに焦点が当たって新鮮な感じだった。メインは釜屋つばめちゃん。丸メガネで髪の毛を横にツンツンさせてるあの子。久美子と同じ2年生で、麗奈にマリンバの技術を見込まれて勧誘されていたが気後れして断っていた。チームもなかで仲の良い葉月に説得されて合流したのはいいが、皆と合わせるのが苦手という弱みを持っていた。タイミングが先走り過ぎている!と語気強めの麗奈のスパルタ指導に委縮する一方のつばめを見かねた久美子は個別練習を提案。打楽器でもみんなと一緒に呼吸しなくちゃタイミングが掴めないよ、という久美子のアドバイスには、見てるこっちも「へーーっ、なるほど」と思ってしまった。

確かに頭だけでカウントするよりも、体を使って同期するのが理にかなっている。少人数でテンポの揺らぎもあまりないロックやポップスならまだどうにかなりがちかも知れないが、吹奏楽やクラシックの楽譜にはテンポに関する記号が色々あるというイメージがあるし、そういう部分が奇麗に合う/合わないは演奏の歯切れの良さ/悪さに現れてバンドの実力を物語る大きな要因になってしまうだろう。素人の自分には正直どこがズレているのか分からなかったりしたが(分かりやすいシーンもあるが)、演奏者からすると違和感があるのだろう。そういう問題を、相手をよく観察して適切なアドバイスができる黄前部長はさすがで、パーカッションのリーダー順菜ちゃんも手をこまねいていたのは、違う楽器からの視点をうまく導入できたこともあるだろうし、人にものを教える際の、自分では当たり前にできる事を相手ができない/気づいてないことに思い当れるかどうか。言うのは簡単だが実際の勉強や仕事の場面でも人に教えるのは難しいことで、久美子が単に上手いからというだけではなく、3年弱の間上手くなりたいと藻掻いてきた背景があってこそと思える。葉月に対するアドバイスもしかり、単なるその場の出来事というだけではなく、これまでの経緯とか人間関係のような背景と重ねて見れるところはこの作品の面白いところで、単純に長く続いているシリーズものの強みでもあるし、それ以上に、そうした積み重ねも含めて表現しようとする製作サイドの気持ちがこもっている。

このイベントをきっかけに段々と自信を付けていくつばめ。本番前に久美子と楽器を体育館に運ぶシーンが良かった。大きく重いマリンバを久美子の手助けを借りながら渡り廊下を運ぶ。段差のところは二人で慎重に運ぶ。段差を超えたとき、静かな口調の中に見えるつばめの前向きな気持ちへの切り替わり。その後体育館に向かって力強く、もう大丈夫だと言わんばかりに楽器を一人で押し始めるつばめと、その後ろ姿を一瞬見つめて嬉しく思う久美子。短かったアンサンブルコンテストの練習期間の二人の成長を象徴するシーン。泣きです、泣き。

久美子の指導力を見て自分の至らなさにショックを受ける麗奈もかわいらしかった。何だかんだ言って麗奈も久美子に一目置いているのだという関係性が良い。

ちなみに、マリンバの演奏シーンは素晴らしい。バチのスピード感と細かい動きが見事に表現されていて見とれてしまった。音響も臨場感があってほんと素晴らしい。鍵盤の下を潜るカメラワークは中から演奏を聴いているようで面白かった。

もう一人、井上順菜ちゃん。この人も2年生で打楽器のパートリーダー。その活躍ぶりはいつも拝見していた。そう、シンバルをジャーーンの人で1年生でコンクールメンバーの実力者。演奏シーンで定番のジャーーンの大写しはカッコよくて、気になっていたあの子、という感じなのだが、どういう人なのかはこれまでほとんど謎だった。何十年も遠い昔、隣のクラスで気になる人がいて、何かと目で追ってしまうような人がクラス替えで同じクラスになって話せました、という自分の経験を思い出した。リーダーのしっかり感を持ちつつ人当たりも良く、気後れするつばめをよくサポートした。ドラムセットを叩く姿も新鮮でカッコ良かった。今後の活躍にも期待してしまう。

一人だけ1年生の小日向夢ちゃんは、ほぼ出番はなかったのですが。TV3期で活躍してくれるのかな。

久美子達のチーム(チーム高坂?笑)は実力者揃いだったが、生徒主体の本オーディションでは選ばれなかったものの、一般受けは一番良かったという結果。できれば演奏シーンを見てみたかったけれど、今回の特別編では本番での演奏シーンはなかった(微笑ましい緑と求の演奏シーンのみ)。

世のレビューを見ていると、演奏シーンがなかったことで評価を下げている人がそれなりに居るようにみえる。個人的には、構成としては今回の形は割と好みだった。久美子とつばめのイントロが始まり演奏自体はBGMの形で流れる中、静止画ベースの全チームのメンバー紹介になる。吹部の部員は色々な資料では名前やパートの設定を知る事はできるのだが、今回3期を前にアニメの中で改めて誰にでも分かる形で紹介してくれるのは優しいと思った。あえていえば、穏やかなイントロの後に曲調がアップテンポに変わる。自分は最初勘違いしたのだがイントロまでしか流れずにチーム紹介が別曲で始まったように感じてしまった。冒頭だけでもチーム高坂の演奏シーンがあれば多少導入され易かったのかも知れない。

本シリーズの演奏シーンは、もちろんそれ自体もとても好きなのだが、ドラマを補強するようなイメージで観ている感が強い。色んな事を乗り越えてこの演奏をやってるんだなと感慨に浸りながら見ている。TV1期2期はストーリー的にも演奏を中心に北宇治吹奏楽部がまとまっていくという流れがあったので、時には部員同士で衝突しながらも、各種演奏会や、何度も何度も何度も何度も練習した三日月の舞で締めくくられるというのか最高の形だった。が、誓いのフィナーレから、誓いのフィナーレは尺の問題で表現し切れてないが、特に、今回のアンサンブルコンテストから顕著になったのは、上級生になった久美子の頑張りとそれを通してみた部員それぞれの葛藤話が中心になってくる。バランス的に演奏シーンとして今回の構成でも違和感はないし、何なら「あぁユーフォが帰ってきた!」と一瞬で思わせてくれたOPのOMENS OF LOVE を聴けただけで、最初の5分程度で、もう満足してしまった。

3年生編になると、久美子の部長としての大変さと個人としての大変さが加速していき、ますます合奏の視点がなくなっていくかも知れない。まとまった演奏シーンが少なくなるのではないかと想像している。個人的には本当に楽しみな新シリーズだが、もしかすると物足りないと残念に思う人もそれなりに居るのかな、と、ふと考えてしまった。とはいえ、大きな流れとしては全国大会金賞を狙うというストーリーがあり、その演奏がクライマックスになるわけで、劇的な曲をノーカットで演奏してくれるに違いない。3期の劇場版はないと思っているので、TV版でやり切って欲しい。


わずか60分足らずの作品だが、中身は濃かった。各シーンが印象的だが、書き切れない。ラストの4人で帰宅する夕焼けのシーン。変わらないようで強まった4人の絆、最後のコンクールに対する力強い決意、同時に残された短い時間に対する切なさを詰め込んだ日常描写の極致。そして、チェコまんを食べた時の麗奈の作画崩壊級の表情には笑った。最高です。

以上、アンサンブルコンテスト編は、ユーフォ最終章に向けて期待を裏切らない良作だった。満点!