読書「プログラミング教育はいらない~GAFAで求められる力とは?~ 」

光文社新書、岡嶋 裕史 (著)、「プログラミング教育はいらない~GAFAで求められる力とは?~」という本を読みました。2019年2月に刊行されて書店で平積みされていた本書を購入後、寝かせていた(笑)ものをようやく読んだ形です。少し前から長距離の電車通勤をし始めたのだけど、電車通勤は溜まっていた本の消化が捗ります。

 

さてこの本、はっきり言ってタイトルがおかしい。怒りを感じるくらいに不誠実なタイトルだと感じた。これまであまり考えたことがなかったけれど、名は体を表す、そのようなタイトルが本には付いていて欲しいと思います。内容や目次をざっくり立ち読みして見極める事もなくタイトルに釣られて買ってしまった方が悪いと言われればそれまでですが、著者や出版社はそんな売れ方して嬉しいのですかね?儲かるから嬉しいんでしょうね。

 

Webの、まとめサイトに誘う釣りタイトルなら苦笑いで済みますし、例えば小説がタイトルをミスリーディングさせ、読み進めた時に「ああ、そういう事なんだ!」というような良い意味での驚きは あり かと思いますが、この手の本にそんな所は求めてないですよ。

 

まず冒頭で著者が「挑発的なタイトルは好きだ」と述べられています。挑発的ゆえに、タイトルしか見てなかったり、最後まで読まずに批判する輩がいる事を嘆いておられますが、そりゃ仕方ないですよね。せっかく内容は良いものなのに、おかしなタイトルが付いていれば炎上の一つもするのではないでしょうか。炎上上等と思われているフシもあってイラっとしました。

 

私自身、この本に期待したものは、こうでした。

ここ数年、学校で「プログラミング教育」が始まる、ということが何かと話題になっています。うちにも小学生が3人いることと、自分自身プログラミング好きなので、興味深い話題です。最初は「えっ、プログラミングってどういう事?」と思いましたが、ちょっと調べれば、プログラミング=コーディング(プログラム言語を書く行為)を直接示すものではなく、プログラミングを通して、論理的な思考や身の回りのものの仕組みを具体的に考えるような力を育むことを主な目的としたものであるとすぐに分かります。文部科学省の指針、推進中のモデル校の報告、プログラミング教室、通信教育の教材、子供向けのプログラミング書籍、どれを取っても論理的な思考を育てる、みたいなお題目が書かれている。「プログラミング ≠ コーディング」端からそんなことは前提だと思っていました。それを「いらない」と言う。どういう事なんだろう、とまず思ったこと。

そして「GAFAで求められる力」。GAFAGoogle,Apple,Facebook,Amazonという今の情報社会を先導する先端IT企業群を示していますが、日本で2020年から始まるプログラミング教育、それではGAFAには通じないと主張しているのだと思ってしまったこと。このタイトルから、じゃあGAFAではどんな事が求められるのだろう、どんな教育をしているのだろう、という点に興味を抱いてしまった。お前の思い込みだろう、と言われれば、その通りではあります。

 

しかしながら 本書は、蓋を開ければ、プログラミング=コーディングという事を言っており、タイトルは「コーディング教育はいらない」と言い換える事ができる。GAFAについても部分的に触れている個所もあるけれど、一般論の中にGAFAのワードがちょっと出てくるくらいでしかない。

要は、GAFAのような企業には(それを生んだアメリカのような国には)得体の知れないIT教育のノウハウがあるのだろうか、というような幻想を勝手に抱き、このタイトルに釣られてしまったのは、こちらにも非があると言えますが、なんか寂しいですね。これが、「プログラミング教育が目指す(べき)もの」というような、一見詰まらないタイトルであったならば、普通に良書と認識したと思う(買ってないかも知れないけれど)。結局は、この著者の本はもう買いたくないと思ってしまいました。

 

本の内容自体は、著者が大学で学生を教えている方であり、また「プログラミング教育」に関する取り組みにも多く関わっておられる事から、その目指すところや現状についてもよく説明されているし、その点においては興味深く読むことができました。

プログラミング=コーディングというものは、与えられた設計書をコード(プログラム言語)に変換するような単純作業に近いものであり、今時の社会問題にもなっている契約社員派遣社員などの非正規労働者の立場になりがちなのに対して、格差社会を乗り切るためには、上流工程である物事の仕組み・枠組みを作り出す立場を目指しましょうと。また 世界に目を向けると、今やITが支配する世の中で 並みいるIT強国と肩を並べる国となるためには、論理思考・モノの仕組みを知って考える力を、理系文系問わず、子供のときから身近で体感することが大切であろうと。有名なIT企業の創設者達もそうであったように。

そして、2020年度から小学校で必修科目として取り入れられる事になっているものの、機械音痴だったりプログラミングって何?という先生もそれなりにいて、機材もそんな簡単には揃えられないような問題が山積みである中、どのように推進していけばうまく行くだろうか、という事についても書かれています。

 

うーーん、こう書いてみると、中身は良い本なんですよね(笑)。タイトルだけが気に食わない。想像するに、著者はプログラミング教育を推進する立場にいて、色々な誤解も受けているでしょう。「プログラミング教育=プログラム言語を教える授業」という誤解も少なからずあると思う。そういう層に向けてのタイトルなんだろうなぁ、とは思います。思うものの、もっと違うタイトルでも良かったのではないか、そう思いました。こんなに本のタイトルに固執したのは初めてですが!